大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島家庭裁判所 平成11年(少)1202号 決定

少年 T・H(昭和59.5.18生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

1  Aと共謀のうえ、平成11年8月29日午前10時20分ころ、広島市○○区○○×丁目××番××号○○駐車場において、B所有の自動二輪車1台(時価30万円相当)を窃取しようとして、エンジンキー差込部分を破壊してエンジンをかけ自動二輪車に跨ったが、Bに発見されたためその目的を遂げなかった、

2  平成11年10月2日午後6時32分ころ、広島市○○区○□×丁目×番××号○○株式会社○□店において、同店店長C管理にかかるニッペ蛍光スプレー3本他2点(販売価格合計4920円相当)を窃取した、

ものである。

(法令の適用)

1の事実につき

刑法243条、235条、60条

2の事実につき

刑法235条

(処遇の理由)

少年は、13歳である中学2年生の1学期終わりころから、勉強嫌い等から、授業さぼり、遅刻、早退をするようになり、担任教師の指導に反発して教師の自動車に傷をつけるなどした。

少年は、中学3年生になった平成11年4月に、暴走族「○○」に加入して暴走族仲間と行動を共にし、集会毎回参加、バイク盗、無免許運転、暴走行為をするほか、自宅で深夜まで騒ぎ、殆んど登校しなくなった。

少年は、平成11年5月21日から児童相談所の一時保護を受けたが、行動を改めることを約束して、同月27日に一時保護が解除された。

少年は、平成11年5月30日に暴走族を脱退する旨の意思を表明したが、間もなく暴走族に復帰した。保護者は、暴走族復帰を認めないのなら家を出るとの少年の脅しに屈した。保護者は、少年に対し、暴走族復帰を容認する代りに、登校することや仲間を自宅に連れてこないことを約束させたが、少年は約束を無視し、やがて少年宅は暴走族の溜まり場となり、繰り返しバイクで学校周辺を暴走して教師から注意を受けてもこれに従わなかった。平成11年8月に友人が無免許運転中事故を起こして死亡したことが大きな喪失感となり、少年はますます暴走にのめり込んでいった。

保護者は、少年の自主性を尊重し、自分の好きなように生きることを重視して子育てをしてきた。このため、少年は、我が強く、自己中心的性格を形成し、野球選手になることを夢見て学業は二の次にし、授業をさぼり、教師の注意を無視して自由勝手に振る舞った。このため監督が試合に出場させてくれなくなり、少年は中学2年生で野球をやめ、中学生生活で大きく躓いた。

少年は、保護者から自主性を尊重した育て方をされたため、現実認識が甘く社会性が未熟で、自制力の弱い人格を形成しており、規範意識が著しく欠けている。また、少年は、自我が強く、内省ができず、自分の行動が学校全体及び近隣社会にいかに迷惑を及ぼしているかという現実につきほとんど認識を欠いており、教師の注意、指導に対しては教師の側に非があるとして自己を正当化し、教師に対する反発を強めていて、学校適応性は皆無の状況にある。

少年はまだ中学生であり、これまでに保護処分歴がないので、在宅保護の可能性を十分検討すべきであるが、すでに1年以上学校不適応状態が続いており、暴走族にのめり込んで急激に非行化を強めているところ、保護者は監護力を失っており、在宅保護のための有効な社会資源はない。本件非行は、1件は未遂であり、1件は被害結果が比較的軽微ではあるが、いずれも暴走族活動を背景にした非行であり、窃盗未遂の非行は、付近で農作業をしている者がいるのに敢えて犯行に及んでおり、自昼の大胆な非行であって規範意識の著しい欠如が窺われ、保護処分を選択するについては、結果の軽いことにとらわれすぎてはならないと考える。また、少年は、現時点においては、一応の反省の情を示し、暴走族を脱退して学校に戻りたいとの希望を表明しているが、少年にとっては暴走族が唯一の自己実現をはかることができる場であってのめり込みが強く、これまでにも脱退を約しながら間もなく復帰しているところからみて、容易に暴走族からの離脱はできないと思われる。また、過去1年間の少年の学校不適応状態(単に少年自身が適応できないだけでなく、他の善良な多数の生徒に対し迷惑や悪影響を及ぼしていることは看過できない)特に教師に対する強い反抗的態度を続けていることを軽視することはできず、現状では正常な中学生生活に戻ることは不可能であると思われる。

少年自身はようやく反省の言葉を述べるようになってきてはいるが、規範意識が極めて低いことや少年の過去の行状に鑑み、少年が自力によって学校生活や日常生活態度をたやすく改善できるとはとうてい考えられず、少年の性格、行動傾向、不良交遊関係、保護者の監護力等に照らし、少年が暴走族を背景にした非行を繰り返すおそれは大きく、在宅保護によって再非行を防止することは不可能と判断される。したがって、この際、少年を初等少年院に収容して、義務教育の履修をはかりながら、社会性や規範意識の涵養をはかることが必要不可欠と判断する。

なお、平成11年少第1178号ぐ犯保護事件は、少年が、暴走族に加入して活発に暴走族活動をし、日常生活は昼夜逆転しており、週末には集会参加、深夜徘徊、暴走行為を繰り返し、教師の指導や保護者の監護に従わず、将来窃盗、道路交通法違反等の罪を犯すおそれがあることを審判に付すべき事由としているが、少年が犯した本件窃盗未遂及び窃盗は、少年の前記ぐ犯性が現実化したものと認められる。よって、前記ぐ犯事実は、本件窃盗未遂及び窃盗に吸収され、独立して審判の対象になるものではなく、要保護性に関する事実として考慮すれば足りるものと解される。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 増田定義)

〔参考〕抗告審(広島高 平11(く)63号 平11.12.16決定 棄却)

主文

本件各抗告をいずれも棄却する。

理由

一 少年の抗告の理由は、要するに、少年は、少年鑑別所での生活の中で十分に反省し、自分が行った罪を理解し、暴走族から抜ける決意をし、これからは気持ちを改めて、まじめに学校生活を送りたいと考えたが、原審では、この少年の気持ちを十分理解してもらえなかったものであるから、右のような事情を考えれば、少年を初等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当である、というのであり、法定代理人親権者父の抗告の理由は、要するに、少年が反省していることを認めた上、納得して少年院での生活をがんばれるような理由を示して欲しい、というのである。

二 当裁判所の判断

1 原裁判所が認定した非行事実の要旨は、少年が、第一、Aと共謀の上、平成11年8月29日、広島市○○区○○×丁目のマンション駐車場において、B所有の自動二輪車1台(時価約30万円相当)を窃取しようとしたが、同人に発見されたため、その目的を遂げず、第二、同年10月2日、同区○□×丁目の○□店において、同店店長が管理するニッペ蛍光スプレー3本外2点(販売価格合計4920円相当)を窃取した、というものであるところ、第一の非行は、1歳年上の暴走族仲間に誘われ、バイクが手に入ったら、運転させてもらえることから、誘いに応じて、窃盗の見張りをしたものであり、第二の非行は、父親からもらったバイクに色塗装をするためにペンキスプレーを万引したものであって、いずれも暴走族として活動することを背景とする非行である。

2 少年は、平成10年(中学校2年生)の1学期終わりころから、授業を怠り、遅刻や早退をするようになり、2学期には、担任教師に反発し、教師の自動車を傷付けたりし、中学校3年生になった平成11年4月終わりころ、暴走族に加入し、暴走族仲間と行動をともにして、バイクの窃盗や無免許運転、暴走行為、深夜徘徊などを繰り返し、中学校にはほとんど登校しなくなり、同年4月12日自転車の窃盗を行って補導され(同年6月1日、家庭裁判所において審判不開始となった。)同年5月21日、少年の父親が警察や児童相談所に相談したことにより、同所に一時保護され、同月27日、行動を改めると約束したので、一時保護が解除され、少年は一旦は暴走族をやめる意思を表明した。しかし、少年は、同年6月中旬ころ、暴走族に復帰し、再び暴走族仲間と行動をともにし、両親の意見を無視するようになり、両親は、家を出ると言う少年の脅しに屈し、暴走族を続けることを容認し、同年7月中旬ころには、両親との約束を無視して、ほとんど登校せず、自宅が暴走族仲間のたまり場となる状態となり、さらに、同年8月、少年の友人が無免許運転中に交通事故を起こして死亡したことが大きな喪失感となり、ますます暴走行為にのめり込むようになり、学校周辺をバイクで暴走することを繰り返し、教師の指導には全く従わなかった。そして、同月、暴走族仲間の先輩に頼まれ、一緒に本件第一の非行を行い、同年10月、父親からバイクを与えられ、そのバイクの色塗装のため本件第二の非行を行って、同月18日少年鑑別所に送致された。

3 少年の両親は、子供の自主性を尊重するという姿勢で子供の養育をしたが、少年の要求や甘えを安易に受け入れてきた面があり、少年は、内面的に社会性が未熟で、自己中心的であり、現実認識が甘く、自制力が弱く、人前では虚勢を張って強がるが、実際には自分に自信が持てず、周囲に引きずられ、同調し、追従的に行動しやすい。

そのため、少年は、学業に十分ついていけず、熱心にやってきた野球でも挫折感を味わって、中学校生活から離脱し、不良ぶった行動をとり、暴走族の中において自分の寂しさを紛らわせるなど、暴走族が心の拠り所となっており、暴走族を自分の生き甲斐と結びつけ、「将来は暴走族の総長になりたい。」と考えるようになっていたものであり、暴走族への帰属意識は非常に強い。

4 少年の両親は、少年のことを深く心配し、少年の気持ちを理解しようと努力しているが、少年に善悪の判断を身に付けさせ、自らの行動に責任を持たせるというような毅然とした態度は見られず、少年を受け入れる意向は示しているものの、少年を更生させるための具体的な方策は持っておらず、保護者の監護能力は乏しい。

また、少年は、学校生活からの逸脱が始まって1年以上になり、中学校3年生になってからはほとんど授業に出ていない状態で、教師の指導にも全く従う態度を示さなかったものであり、さらに、中学校には非行性の進んだ同級生もいることからすると、中学校に戻っても、学校生活に適応できず、再び暴走族等の不良交遊に傾斜する可能性は非常に高いといわざるを得ない。

5 以上によれば、少年は、これまで保護処分歴はなく、暴走族に加入してまだ半年余りであり、鑑別所等の生活を経て、反省の態度が見られるようになり、暴走族からも離脱し、中学校生活に戻りたいという意思を示していること等の諸事情を十分考慮しても、前記のような少年の性格、行動傾向、暴走族への帰属意識の強さ、保護者の監護能力の乏しさ、学校生活への不適応状態等の諸事情によれば、少年の更生のためには、この際、少年を初等少年院に送致して、規律ある生活の中で、ゆっくり時間をかけて専門的な処遇を施し、義務教育の履修を図りながら、自己の問題点に対する十分な内省を深めさせ、内面的な成長を促し、規範意識を身に付けさせ、職業訓練等を通じて社会生活に適応できる力と自信を付けさせることが必要である。

したがって、少年の非行事実及び要保護性を検討し、以上に述べたところと同旨の判断に基づき、少年を初等少年院に送致した原決定は相当であって、その処分に著しい不当はない。

6 なお、法定代理人親権者父の抗告の理由は、少年が納得して少年院での生活をがんばれるような理由を示して欲しい、というものであって、原決定が不当であるというものではないから、適法な抗告の理由に当たらない。

三 よって、本件各抗告はいずれも理由がないから、少年法33条1項後段、少年審判規則50条により、これらを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 福嶋登 裁判官 佐藤拓 大善文男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例